まえがき

 

自邸の庭の落葉樹が少し伸びすぎたため、定年退職を機に枝を切り廃棄しようとした時、手が止まった。家を建てた時に植えて以来25年間、家族のように大事に育てたブナやシャラの落葉樹であり、この剪定した枝でふと絵を描いてみようと思った。木の枝を輪郭線とした新しい作画方法である「枝画」の始まりである。

 

元々、絵画や彫刻などの芸術は好みの分野であったが、中学以来の50年以上の間、芸術教育を受けた経験も絵画などの作品制作もなかった。このような背景ではあったが、上記の理由も含めて多種多様な出会いや偶然が重なり、令和42月までの約3年間で約60点の枝画を制作することができた。

 

 「枝画」の特徴は、人の手による人為的な曲線ではなく、(1)木の枝の自然な曲線による躍動感と、(2)立体画であることからの2つのKAGE(影と陰)、すなわち見えるKAGE(影)と陰で隠れて見えないKAGE(陰)による表情の変化である。この特徴は、作品の写真からは十分に伝えられないこともあり、何らかの機会に実物の作品をぜひ鑑賞していただきたい。

 

 なお、作品の制作意図が知りたいとの要望もあり、作品毎にその背景や内容について解説を加えた。これは作者からの単なる鑑賞の入り口であり、作者としては作品とこれを見る人の間で多様な対話ができること、すなわち作者の意図に囚われない新たな物語の創生を願っている。